「忙しい」が口癖の人ほど、なぜか忙しさを自慢したがる

「いやあ、最近、本当に忙しくてさ」

こう言われたとき、あなたはどう返していますか。

おそらく、多くの人は「大変ですね」「お疲れさまです」といった言葉を返すのではないでしょうか。

もちろん、本当に仕事が忙しく、疲れ切っている人もいるでしょう。

ただ、世の中には不思議な人もいます。

忙しい、忙しいと言いながら、その表情はどこか誇らしげ。予定がぎっしり詰まったカレンダーを見せるときなど、まるで勲章でも披露しているかのようです。

反対に「最近は暇なんですよ」と言うと、なぜか周囲から心配されることがあります。

仕事が順調に片付いているだけかもしれないのに、まるで仕事を任せてもらえなくなった人のように扱われる。

考えてみれば、妙な話です。

同じ仕事をしていても、毎日残業している人は頑張っているように見え、定時で帰る人は余裕があるように見える。

ひょっとすると、ボクたちは忙しいこと自体に、必要以上の価値を感じているのかもしれません。

今回は、そんな「忙しい」という言葉に隠された、人間のちょっとおかしな心理について考えてみたいと思います。

忙しい人は、本当に仕事ができるのか

例えば、同じ会社に二人の社員がいたとします。

Aさんは、朝から晩まで忙しそうに働いています。いつも机の上には書類が山積み。電話が鳴れば慌ただしく対応し、昼休みもそこそこに仕事を続けています。

一方、Bさんは、毎日ほぼ定時で帰宅します。机の上は片付いていて、仕事中もそれほど慌ただしい様子はありません。

さて、どちらが仕事のできる人なのでしょうか。

これだけの情報では、判断できませんよね。

Aさんには、ほかの社員より多くの仕事が割り当てられているのかもしれません。

反対に、作業の進め方が悪く、必要以上に時間がかかっている可能性もあります。

Bさんも同様です。

効率よく仕事を片付けているのかもしれませんし、単に仕事量が少ないだけかもしれません。

ところが、実際の職場では、忙しそうに働いている人の方が努力しているように見えることがあります。

なぜでしょう。

忙しさは、目に見えるからです。

大量の書類、鳴り続ける電話、埋まったスケジュール。これらは、仕事をしていることを周囲に伝える、わかりやすい材料になります。

一方、仕事の効率を改善して生まれた余裕は、なかなか目に見えません。

昨日まで三時間かかっていた作業を、一時間で終わらせるようになったとしても、その成果を知らない人からすれば、単に暇そうに見えるだけです。

そして、空いた二時間に別の仕事が追加される。

効率化したご褒美が、仕事の追加というわけです。

これでは、仕事を早く終わらせることに、あまり魅力を感じなくなる人がいても不思議ではありません。

「忙しい」は、自分の価値を証明する便利な言葉

ところで、人はなぜ、自分の忙しさを他人に伝えたくなるのでしょうか。

もちろん、単純に疲れていて、誰かに話を聞いてもらいたい場合もあるでしょう。

しかし、ときには忙しいことが、自分の価値を証明する材料になっているようにも感じられます。

「今月は休みが一日しかないんだよ」

「昨日も夜中まで仕事していてさ」

「もう三週間くらい、まともに休んでいないんだ」

こんな話を聞くと、つい「すごいですね」と言いたくなるかもしれません。

ただ、冷静に考えてみると、休みが少ないことと、仕事で優れた成果を出していることは別の話です。

毎日遅くまで働いていても、成果が出ていない場合はあります。

逆に、短い時間で十分な成果を上げている人もいるでしょう。

にもかかわらず、忙しさを語ると、なんとなく重要な仕事を任されている人のように聞こえる。

人間は、他人から必要とされていることを、嬉しく感じる生き物なのかもしれません。

仕事を頼まれる。相談される。予定が埋まる。

それらが、自分には居場所があるという安心感につながることもあるのでしょう。

もっとも、忙しさを自慢したいからといって、実際に仕事を増やしたいかどうかは別問題です。

「最近は暇なんですよね」と話していた人に、大量の仕事をお願いしてみる。

すると、翌日から急に忙しくなるかもしれません。

どうやら人間にとって理想的なのは、仕事が山ほどあることではなく、仕事が山ほどあるように見えて、実際にはほどよく余裕がある状態なのかもしれません。

予定が埋まっていることと、充実していることは違う

仕事だけでなく、プライベートでも似たようなことがあります。

せっかくの休日なのに、朝から晩まで予定を詰め込んでしまう。

午前中は買い物。午後は友人と食事。夕方から映画を観て、夜は別の友人と飲みに行く。

充実した一日になりそうです。

ただ、翌朝になって、こんなことを考える場合もあるでしょう。

「ああ、疲れた。もう一日休みが欲しい」

休むための休日で、休む暇がなくなってしまったわけです。

もちろん、予定を詰め込むことが好きな人もいます。大勢の友人と会うことで、元気になる人もいるでしょう。

ただ、予定がないことに、妙な不安を感じてしまう人もいるのではないでしょうか。

カレンダーに何も書かれていない日曜日。

本来なら、好きなように時間を使える貴重な一日です。

ところが、何もしないまま夕方になると、なんとなく損をした気分になる。

「せっかくの休みだったのに、何もしなかったなあ」

別に、誰かに怒られるわけではありません。

それでも、何かをしなければ時間を無駄にしてしまうような気がする。

忙しいことに慣れてしまうと、何もしていない時間を楽しむことさえ、難しくなるのかもしれません。

そう考えると、予定のない休日を心から楽しめる人は、なかなか贅沢な時間の使い方を知っているのでしょう。

「忙しいからできない」は、いつまで通用するのか

さて、「忙しい」という言葉には、もう一つ便利な使い道があります。

それは、何かを断るときです。

「最近忙しくて、本が読めないんですよ」

「運動したいんだけど、仕事が忙しくてね」

「会いたいんだけど、ちょっと忙しくて」

いずれも、日常でよく耳にする言葉です。

もちろん、本当に時間が取れない人もいます。仕事や育児、介護など、自由に使える時間が極端に少ない状況もあるでしょう。

ただ、すべての「忙しい」が、物理的に時間が足りないことを意味しているわけではありません。

例えば、運動する時間がないと言いながら、毎晩二時間ほど動画を観ている人がいたとします。

本人が悪いわけではありません。仕事が終わったあと、動画を観ながらゆっくり過ごす時間も必要でしょう。

ただ、この場合は「運動する時間がない」というよりも、「今は運動よりも動画を観る時間を優先したい」という方が、実態に近いのかもしれません。

読書も同じです。

一日に三十分の時間があったとしても、その時間を読書に使うかどうかは本人の自由です。

大切なのは、時間がないことと、優先順位が低いことを、混同しないことでしょう。

もっとも、「あなたと会う優先順位が低いので、今回は遠慮します」などと正直に伝えてしまえば、人間関係に少々問題が生じます。

そんなときには、「忙しい」という言葉が役に立つわけです。

理由を詳しく説明せず、相手の気分もなるべく害さずに断ることができる。

そう考えると、忙しいという言葉は、人間関係を円滑に保つためにも、それなりに重要な役割を果たしているのでしょう。

暇だと言える人は、案外ぜいたくなのかもしれない

最後に、忙しいことの反対について考えてみましょう。

つまり「暇」です。

この言葉には、あまり良い印象を持たない人もいるかもしれません。

仕事がなくて暇。

予定がなくて暇。

誰からも誘われなくて暇。

そんな言葉を並べてみると、なんとなく寂しい生活のようにも聞こえます。

しかし、暇であることは、本当に悪いことなのでしょうか。

やらなければならない仕事が片付いている。

誰かに急かされることもなく、好きなことに時間を使える。

気が向けば散歩に出かけてもいいし、家で昼寝をしても構わない。

これは、なかなか魅力的な生活です。

もちろん、仕事がなくて生活に困っている人の暇と、経済的に余裕があって自由に過ごせる人の暇は、同じではありません。

ただ、自由に使える時間を持っていることは、それ自体が一つの豊かさなのではないでしょうか。

仕事を効率化するのも、家事を便利にするのも、本来は自由に使える時間を増やすためだったはずです。

ところが、せっかく時間が空いたのに、何も予定がないと落ち着かず、また新しい予定を詰め込んでしまう。

そして、再び「忙しい」と言い始める。

まるで、時間を節約することが目的になってしまい、節約した時間をどう使うのか忘れてしまったようです。

まとめ|忙しさを自慢するより、時間の使い方を考えたい

忙しいことは、決して悪いことではありません。

大切な仕事を任され、多くの人から必要とされているのであれば、それは喜ばしいことでもあります。

ただ、忙しさと成果は、必ずしも比例しません。

予定が詰まっていることと、人生が充実していることも、別の話です。

本当に考えたいのは、自分が何のために忙しくしているのか、ということでしょう。

仕事で成果を出すためなのか。

家族や大切な人のためなのか。

それとも、忙しくしていないと、自分に価値がないような気がしてしまうのか。

もちろん、簡単に仕事を減らせない人もいるでしょう。そんな人に必要なのは、時間の使い方を説教されることではなく、仕事の負担を減らすための具体的な助けかもしれません。

一方、自分の意思で予定を増やし続けているのであれば、ときには何もしない時間を作ってみるのもよさそうです。

ちなみに、世の中には「忙しいから、もっと効率化しなければ」と考え、時間管理術の本を何冊も購入する人がいます。

そして、その本を読むための時間が取れず、積んだままになってしまう。

忙しさを解消するために、また一つ、やらなければならないことが増えているわけです。

どうやら、人間にとって一番難しい時間管理術は、予定を増やすことではなく、予定を増やさないことなのかもしれません。

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